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町村病院に期待感
1期生社会へ 求められる支援体制
道内の公立3医育大学のうち、旭川、札幌の両医科大学が道内の医療過疎解消に向けて2008年度入試から導入した医学科の「地域枠」で、同年度に入学した学生が来年3月、6年間のカリキュラムを終えて卒業を迎える。臨床研修(初期臨床研修、2年間)と専門研修(後期臨床研修、約7年間)を経るため、すぐに医師として地方で勤務するわけではないが、医師不足にあえぐ十勝管内町村の病院関係者らは同枠の卒業生が地方医療に携わることへ期待を寄せている。
道東・道北の医師派遣の中心を担ってきた旭川医大は、特に医師不足が著しい両地方の医療を支える医師を育成するため、08年度入試で推薦・AO入試に「地域枠」を導入。医学部の定員増などを経て、現在は十勝を含む道東・道北(旭川市など上川中部を除き、道央のうち北空知、中空知を含む)の出身者を対象とした推薦入試「道北・道東特別選抜」と、道内での医療貢献に意欲を持った人物が対象のAO入試「北海道特別選抜」を設けている。
地域貢献必ず
卒業後は大学側が指定する研修指定病院(原則として旭川医大病院)で卒後研修を行い、それぞれ道北・道東地域と、道内の地域医療に貢献することが入学の条件となっている。
管内町村で唯一の産科を持つ公立芽室病院(芽室町)では現在、常勤の小児科医が不在で医師確保に腐心しており、地域枠1期生の卒業に「町村部の病院はどこも医師確保に苦労している。その中でとても大きな期待をしている」(小窪正樹院長)とする。募集人員から見て実際に同枠の卒業生が勤務し、医師不足が直ちに解消される可能性は高くはないが、「地域医療に携わる使命感や醍醐味のようなものは、実際に現場で従事しなければ分からない部分も多い。地域枠の学生が地方医療を経験することで、将来的に(十勝に)来ることも大いに考えられる」(同)という。
高度先端医療や大病院、それと対極に位置するような孤島などのへき地医療に比べ、町村部での病院勤務については医学生に十分に理解されていない現状もあり、管内町村の病院関係者の間では地域枠の中でも十勝や地元出身者に期待を寄せる声も聞かれる。
勤務抵抗ない
旭川医大の地域枠1期生で、来年2月に医師国家試験、同3月に卒業を控える鹿追町出身の菅原梨香さん(24)=帯広柏葉高卒=は「町村部の病院勤務に抵抗はなく、地方で勤務するとなれば(生まれ育った)十勝が良いと思っている」と話す。
実際、管内の町村立病院で行った実習では「想像以上に患者さんと接する時間が多く、やりがいと重責感の両方を感じた」。現在の志望は耳鼻科医で、卒業後は入学時の誓約通り同大病院で初期研修に臨む。ただ、「(初期研修後に)そのまま地方病院で勤務することは不安があり、制度や施設の整った病院で医師としての基礎を固めたい」との思いもある。
医局が重要に
そうした中、「地方に派遣されたり、地域医療を志す医師をどのようにサポートするのかが重要」(小窪院長)との声は多い。道は地域枠を卒業した大学院生・研修医に対し、道内医療機関での勤務を条件に奨学金制度を設けて支援に取り組むが、医師の派遣・人事までの仕組みを持つことは難しい。管内の関係者からは「その役割を担ってきたのが大学の医局。教授への権力集中など問題点も多く指摘されているが、地方勤務が義務付けられている地域枠の学生には医局に入ってほしい。医局に体力が戻れば、医師確保もしやすくなる」との声もある。
地域枠は制度自体まだ始まったばかりで、効果や問題点が論じられるのは少なくとも数年たってから。地元側には同枠への期待だけにとどまらず、医療水準の確保、既に管内でも始まっている高校・大学・病院の連携など、医師不足解消に向けた“能動的”な取り組みがますます求められていきそうだ
新たな臨床研修制度と医師不足問題 2004年にスタートした医師臨床研修制度では、医師免許を得て診療に従事しようとする医師に対し、2年間の臨床研修を必修化した。一方、研修先を自分で選択できるようになったことで、研修体制の充実する都会や大病院に研修医が集中。また、大学病院の医局への入局を選択しない医師も増えて医局の人材不足が起き、大学病院から派遣されている地方医師の引き揚げも行われるなど、地方を中心に医師不足が叫ばれるようになった。
政府はこれらの指摘を受け、2010年の研修から制度の一部を見直した。研修医募集人員の適正化に取り組むとともに、研修プログラムのうちこれまで選択だった「地域医療」(1カ月)を、内科(6カ月)、救急(3カ月)とともに必修としている。